田舎暮らしの生の声きいちゃいました。
田舎への移住や暮らしを考えたときに、仕事はどうするのか、どうやって暮らしを作るのかは、多くの人が考えることと思います。実家に戻るにせよ、新しい土地で新しい暮らしにチャレンジするにせよ、「暮らしていける」という安心や希望は大切な要素。
今回は、2020年10月3日に行われた、益子町でのコンパスツアーのレポートを通して、農業を仕事にして暮らす可能性について考えていただければ幸いです。
◆ツアー内容の詳細については、こちらをご覧ください
益子駅から始まる新しい1日
朝の10時、益子駅に10名の参加者が集まりました。 全員マスク着用、検温やアルコール消毒といった感染対策を行いつつも、人が集まって来てくれたことに喜びの表情があふれるスタッフ一同。 参加者は、農業体験に興味があったという人や、新しい益子町の一面を知りたいという人などさまざま。中には、コロナウイルスの影響で職場から地方移住が推奨されるようになり、新しい拠点を探しているという人もいました。時代ですね。
今回の地域ナビゲーターを担当してくださった城間さんと橋本さんは、ともに同じぶどう園で農業を行いながら、地域の果樹園継承の仕組みづくりに取り組む地域おこし協力隊です。収穫と出荷という、1日の大事な仕事を終えて来てくれました。
地域ナビゲーターのお二人
城間 宥哉 さん
果樹農家見習い・益子町地域おこし協力隊
沖縄県出身。自然や食に関わる仕事に興味があったことと、様々な職業の要素が含まれている農業に魅力を感じ、就農を志す。果樹に関する情報の収集・整理を行う他、後継者のいない園地を管理し、栽培技術を習得することで任期後の就農へ向けて準備中。将来の目標は、沖縄と益子を組み合わせたお店を立ち上げ、人々が気軽に交流できる場所をつくること。
橋本 玲英 さん
果樹農家見習い・益子町地域おこし協力隊
北海道出身。都内の大学を卒業後東京で就職。都会での慌ただしい生活とは逆の暮らしを求めて益子町へ移住。果樹園継承など農業を仕事とするための仕組みづくりと、自身の就農のためにぶどう等果樹の栽培技術を学んでいる。将来の目標は、6次産業化に取り組み、生食としては商品にならないぶどうを有効活用した新商品を生み出すこと。
益子の町を知る。歩いて感じる益子の風景
ツアーの大きな流れは、「益子町を知る」と「農を知る」の2段構成。
実際に町の中を歩きながら話を聞く時間は、ツアーのブレイクタイムにもなり、参加者同士の仲も深まります。
益子町は益子焼で知られる「陶芸のまち」という面のほかにも、藍染めや木工などさまざま「手仕事」で暮らす人も多くいるそうです。お蕎麦屋さんやパン屋さん、カフェなども多く、自分で仕事を作り、暮らしている人が多い町という印象を受けました。
橋本さんからは「休日や空いている時間にはよくカフェ巡りに出かけます。町めぐりが楽しいですね」という話や、参加者の方からも「焼き物を見るだけでなくいろんなお店があるので、来て楽しい町」という声や「お気に入りのレコードショップがあって、益子に来ると言えばそこです」という人も。
【左:ギャラリー&ショップ「佳乃や」 右:パンとベーグルのお店「日々舎」】
益子町役場の渡辺さんは「昔から新しい人が移り住んでくる土地なので、町全体が移住者に優しい、新しいことを始めやすい空気があるのだと感じています。住んでいる人たちが寛容なのが、暮らしやすい点なのかもしれません」と、紹介してくれ、続けて「益子町は高い建物がなくて空が広いのも、移住者の方に気に入られています。以前益子町一番の高層マンションの最上階に住んでいましたが、それがあれです。」と、5階建てくらいの建物を指差して参加者からの笑いを誘っていました。
【渡辺さんイチオシだという、益子町のビュースポット】
陶器のショップが立ち並ぶエリアに入れば、にぎわいがあり、お店の前を通ると「あのお店はエモい」「次来たときに行きたい」など、観光目線で楽しんでいました。
農を知る。ぶどう栽培と果樹園継承
一通りの町歩きが終わったら、城間さんと橋本さんの活動するぶどう園で農業の時間。
ぶどうはハウスの中で栽培されていて、中に入ると外の気温より少し暖かい感覚。ひとつひとつのぶどうに虫避けの白い袋が被せられていて、一見すると”あしかがフラワーパーク”の藤棚のような光景が広がる園内。
ぶどう棚に見惚れるのもそこそこに、まずは城間さんから地域おこし協力隊としての活動内容の紹介と、橋本さんからぶどうの育て方について教えていただきました。
2人が地域おこし協力隊として取り組んでいるのは、「果樹園継承の仕組みづくり」。
益子町には、今、ぶどうだけでなくりんごや梨、ブルーベリーなど様々なものが栽培されていて、益子町の果樹農家の方にアンケートを取ったところ、8割ほどの果樹農家さんに後継者がいないという結果に。そこで、すぐにでもやめようと思っている農家さんにお願いして、ぶどう園を貸していただけることになったそう。
まずはぶどう園で農業を実際に行って、農業知識・技術を深めながら、数年以内にやめようと思っているほかの果樹園の継承も進めていきたいのだそうです。
ちなみに、新規就農というと、栽培品種を決め、土地を用意し、就農設備を整えて、新しく植えるといった流れになりますが、果樹園地継承であれば、このほとんどが揃っています。初期投資も少なく、非常に始めやすいとのこと。
特に果樹の場合は、木を植えてから収穫できるまでに何年もかかるため、継承で始められるのは大きなメリットと言えるでしょう。
城間さんも橋本さんも初めての農業でわからないことも多い中で、周りのベテランの方々に教えてもらいながら少しづつ”農業スキル”を身に着けているところなのだそうです。
農業についてのお話を聞いたあとは、ちょうどお腹も空いてくる時間帯。ぶどうのハウス内に、竹製のテーブルと椅子を並べ、昨年のコンパスツアーでも登場した「&GARDEN」のチキンカレーと、収穫したばかりのぶどうを使った100%ぶどうジュースでのお昼。
100%ぶどうジュースは、収穫したぶどうを絞っただけのもので、参加者からは「濃い!」「甘みが凄い」「こんなの飲んだことない!」と驚きの声が。
橋本さんいわく「お店に出しているものの多くは、飲みやすく加工しているものが多いので、この濃さはなかなか味わえないと思います。人によっては濃すぎて飲みにくいと感じるかもしれません。」と、コメント。みなさん美味しそうに飲んでくれたことを喜んでいました。
お昼のあとは収穫体験。
現在、ぶどう園で育てている巨峰、紫玉、ピオーネという3つの品種をそれぞれひとつずつ収穫して食べ比べ。
城間さんから「色が濃くて重いものが、食べごろのいいぶどうです。いいものを見つけてとってくださいね」とぶどう探しのコツも伺って、参加者それぞれぶどうの収穫を楽しんでいました。
ぶどうはすべて袋がかかったままの収穫でしたので、実際に「これだ!」と思って収穫してみると、意外と熟しきっていないぶどうが混じっていたり、悪くなってしまっている粒も混じっていたりと、思うようなものがとれなかった場面も。
完璧に整ったぶどう以外はそのまま売り場には並べられないので、悪くなった部分を切り落としたり、それでも房売りできないものはジュースにしたりと、手間がかかることを教えていただきました。しかも、ジュースにすると房売りよりも手間がかかるうえに、売上も下がるため、房売りできるぶどうをきちんと作るのが基本であり特に大事なことなのだそうです。
そこから、城間さんの「房売りできないぶどうをどう売るか、みなさんと一緒に新しい売り方のアイディアを考えたいなと思っています。」という流れでワークショップがスタート。思いついたものがあれば、手元の厚紙に書いて発言という気軽な方法で、ぶどうの新しい売り方をみんなで考えました。
「冷凍ぶどうをそのまま使ったかき氷にしよう」というものや、「ぶどうを染料としてつかってダメージジーンズを作ろう」といったもの、「ジャムやソースを作るクラフトキットにしては?」というものなど様々な意見がかわされていました。
城間さんは「自分では思いもつかないようなアイディアがたくさんでて、とても刺激になりました。いただいたアイディアは、こちらでも練ってみて実現できないか考えてみます。」と。
中には突飛なアイディアと思われるようなものもありましたが、「やれたら面白いのでは?」「どのくらいのぶどうがあればできるかな?」と、みんな出たアイディア自体を楽しんでいたように見えて、いい人たちが集まっているな、と感じられたワークショップでした。
地元の人を知る。田舎の暮らしと豊かさと
ワークショップのあとは、益子で果樹栽培を行っているりんご農園「広田果樹園」にも訪れ、りんごの収穫や、農園の方のお話を伺いました。
自前の直売所を構えながら、りんごの栽培を行っている広田さんは、益子にずっと暮らし農業を行っている地元の方です。
もともとタバコの葉の栽培を行っていましたが、手間がかかることや需要が減ったことを受けて、新しくりんごの栽培を始めたそう。ところがりんごのほうも虫にやられたり雪にやられたりで、なかなかに手間がかかったそうで「楽なものはないですね」と。
城間さんと橋本さんのこれからに期待しているという広田さんは「都会で豊かに暮らすというと、年収でいくらだという貨幣価値で生きなければいけないが、田舎には貨幣以外の価値がある。昨日は朝もやがきれいだった。今の時期は紅葉の様子が毎日移り変わる。山に入れば、ししたけ、ちたけといったものがとれる。そういう土地の気配を感じながら暮らすことが、人間らしい暮らしなのではないかな。城間くんや橋本くんには、何が豊かさなのかをよく考え、田舎の豊かさとは何かを作り伝えていってほしいと思っています。」
広田さんのりんご農園をあとにした一行は、道の駅ましこで買い物のひとときを過ごし、最後にツアーの振り返りを行いました。
参加者の方からのコメントを一部紹介すると、
「みんなと話しながら自分たちでもぶどうをどう売ったらいいのか考えたのが印象に残った。農業のお話としても、育てて収穫して売ってという一連の流れを見られて良かったです。」
「今まで益子はいいところだなと思いながらも、ぼんやりとしたイメージでしたが、今回、違う側面からの益子が見られていいお話も聞けたので、今後のことをいろいろ考えたくなりました。」
と、それぞれ新しい刺激が得られたようです。
城間さんと橋本さんも、ツアーの前は、参加者が集まるのか、楽しんでもらえるのか不安だったそうですが、終えてみると「みなさんが楽しんでいただけたようで、自分も楽しかった。また益子に来るときは気軽に農園にも来てください」と語り、この日の出会いが良いものになったようです。
最後は、益子町役場の佐藤さんが「コンパスは、普通の観光ツアーとは違う体験を提供しているので、これをきっかけに、これからも益子とつながっていただけたらと思います」という言葉で締めくくりました。
コンパスのプロジェクトは今年で6年目。毎年のようにツアー参加者の中から、その地域と深く関わる人が生まれています。人と人のつながりが、新たなつながりを広げ、地域の楽しみが広がっていく。そんな温かい輪に、次はあなたが入ってみませんか。
(文 河野辺 彬文)
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