足利の古民家を活かして小商いをしてみよう【前半レポート】

「地域との繋がりを持ちたい」

 

そんな人を対象に、都市部に住みながら、地域との関わりを持つライフスタイルを提案している「はじまりのローカル コンパス」では、栃木県内各地で様々なプログラムを開催しています。

 

今回の「ひととまちのつながる旅」のフィールドワークは全2回。1回目はまち歩きをしながら足利の歴史や地域資源を知り、参加メンバーで小商いの企画をたてます。2回目で実際に企画したものを「えんまルシェ」というイベントで小商いに挑戦します。

 

今回はそのうちの1回目、10/14~15に実施したプログラムの内容をご紹介です。

 

当日集まったメンバー全員が、都内周辺に住んでいる人たち。学生や建築士、商社で働くキャリアウーマンまで様々でした。

 

彼らはどんな体験をし、地域との関わりをもつ第一歩を踏み出したのか。プログラムの模様をお伝えします。

活動の拠点は、古民家W邸

まずメンバーが集まったのが、今回のはじまりのローカル コンパスの拠点となる、“W邸”と呼ばれている古民家です。

 

足利には人が住んでいない古民家がいくつもあって、それらの管理をし、利活用をする「つなぐつむぐ会」という団体があります。

 

メンバーは到着して早々、つなぐつむぐ会の岩崎さんにW邸について案内をしていただきました。

建物の中も見学させていただきました。

 

織物産業で栄えた足利は、中心街はお金持ちが多かったという背景もあり、細部にこだわりのあるつくりの古民家が多いそうです。

 

正確に把握している人はいないのですが、昭和14年に建てられた当時のW邸の隣には産婦人科医があったようで、W邸はおそらく助産師さんの家だったのだろう、と考えられています。

 

古民家のストーリーを知ることは、足利の歴史にも通ずる部分があるのです。

 

足利ってどんなまち?全体オリエンテーション

全日程を通してサポートしてくださる柏瀬さんから、これからのプログラムに関するオリエンテーションをしていただきました。

 

足利はどんなまちで、どんな人が住んでいて、どんな地域資源があるのかをまずは座学でのレクチャー。メンバーは真剣に聞き入ります。しかし、百聞は一見に如かず。

 

ここから早速、足利のことを知るうえで欠かせない主要スポットをまわっていきます!

地元企業で協力して育てる「足利マール牛」 ―長谷川農場

まず初めに訪れたのは、W邸から車で20分ほどの場所にある“長谷川農場”です。

 

案内してくれたのは、長谷川大地さん。長谷川農場では9割が畜産業で、1割がアスパラガスやタマネギなどの農産物を生産しています。なかでも注目されているのが、「足利マール牛」というブランド牛の飼育です。

 

農場での仕事や、足利マール牛の飼育へのこだわりについて伺いました。

「足利マール牛」とは、長谷川農場が2013年に商標登録したブランド牛です。

 

同じく足利市内にあるココ・ファーム・ワイナリーでワインをつくる際に出る、葡萄の果皮や種を発酵させた“マール”を含んだ飼料を食べて育った牛のこと。

 

マールにはビタミンやポリフェノールが豊富に含まれているので、それを食べて育った牛は肉の味も色も良くなります。さらに、飼料の味が良いので、牛がよく食べて大きく育ってくれるのです。

 

ココ・ファーム・ワイナリーで葡萄の絞りかすを仕入れる一方で、長谷川農場から出る堆肥も提供したりと、足利では地元企業で協力し合って産業を盛り上げていこうとする動きも活発になっているそうです。

こちらは今度のコンテストに出す牛。ごつい顔に、大きな口…など、審査基準が細かくあります。

 

外見が整っている牛を評価するのには、ちゃんとした理由があります。角の形が整っていたり、肩からお尻にかけて俵型になっていたり、お腹が張っている牛は、しっかり食べて病気もせず健康的に育った証拠なのです。

 

長谷川農場の牛は、900kgから1トンと、とても大きくて味が良いのが特徴です。

実際に牛を目の前にして、リアルな現場の話を伺うと強烈に印象に残るものです。

メンバー全員、食い入るようにお話を聞いていました。

 

長谷川農場の牛を育てるうえでのこだわりをはじめ、足利の地元企業で協力し合い、共にブランドを育てていこうとする風土は非常に魅力的だと話すメンバーもいました。

 

長谷川農場 web: http://hasegawa-noujou.jp/

葡萄畑に秘められた歴史に、心が動かされる ーココ・ファーム・ワイナリー

次に向かったのは、ココ・ファーム・ワイナリー。長谷川農場へマールを提供しているワイナリーです。

 

ココファームはワインや葡萄ジュースが楽しめるレストランがあったり、斜面に広がる圧巻の葡萄畑を眺められたり、食や景色を楽しめると、全国から人が集まる足利を代表するお出かけスポットのひとつです。

 

ワインの味も全国トップクラス。世界の首脳が集まるサミットでもふるまわれ、日本航空の国際線ファーストクラスにも常備されているくらい、高い評価を得ています。

 

ガイドをしてくださる池上さんからココファームの歴史や、ワインへのこだわりを伺いました。

ココファームは1950年代に、特殊学級の教師だった川田昇さんが、障がいを持った生徒たちの仕事をつくるために土地を買ったことからはじまりました。

 

当時、障がいを持つ人は仕事ができず家でじっとしているしかありませんでした。そんな人たちにやりがいや生きている実感を与えるために、川田さんは動き出したのです。

 

そして、限られた予算で買えたのがこの土地。川田さんと特殊学級の生徒たちが4年かけて開墾しました。急斜面で耕作地に向いていないと思われた土地でしたが、日当たりや水はけが良く、甘味が凝縮された葡萄づくりに最適の環境でした。

ココファームでのワインづくりには、一切の妥協はありません。手間を惜しまず、葡萄の個性ごとに発酵の仕方、ワインの作り方を変えるのです。それは、1人1人に合った教育や生き方を提案してきた川田さんの教育方針のようだと、池上さんは語ってくれました。

 

最後に、赤・白・ロゼ・スパークリングワインなど様々な種類のテイスティングさせていただきました。歴史や背景に想いを馳せながらいただくと、さらに美味しく感じます。

 

ココ・ファーム・ワイナリー web: http://cocowine.com/

コンパスの醍醐味は“寄り道”にあり

メンバーの期待に応えたい、もっと知ってもらいたい、というサービス精神に溢れた地域コーディネーターは、時々プログラムにはない場所にも連れて行ってくれます。

 

「足利発のアパレルブランドfactoryに行きたい」というメンバー声がどこかで聞こえたと思えば、店舗に寄ってくれたり(写真左)。

 

ふらふら~っとプログラムにはなかった、栃木のイチゴの発祥地を見せてくれたり(写真右)。これも、参加者主体でプログラムを組み、地域と密接に繋がっているコーディネーターがいるからこそできる、はじまりのローカル コンパスの醍醐味です。

 

factory web: https://factstory.jp/

1日目の最後は振り返り&交流会 ―もっくもっく

日が落ちかけてきたころ、1日目最後のプログラムとなりました。場所は1か月前にオープンしたばかりの、おでんとおばんざいのお店「もっくもっく」です。

おでんを食べ、今日撮った写真を見ながら1日の感想をメンバーでシェアしました。

 

そのあとは、足利に住んでいる方々をお呼びした交流会です。

 

足利市の地域おこし協力隊の方や、ココファームのソムリエの方、足利のデザイン会社で働く方、林業に従事されている方、などなどなど。足利での暮らしやしごとを伺ったり、逆に東京での暮らしを伝えたり。

 

お互いの日常生活のはなしを交換しながら、楽しく親睦を深めていきました。

以上で1日目は終了。まだまだ元気なメンバーは「ほろ酔いウォーク」で飲み歩きをしてから、宿泊場所に戻りました。地域で過ごす夜もまた、とても面白いのです。

~2日目~

 

あいにく弱い雨が降っていましたがあまり支障もなく、元気にまち歩き開始です。

 

この日は神社を2箇所案内していただいてから、いよいよ「えんまルシェ」の出店に向けての準備を始めました。

えんまルシェの会場を下見  ―閻魔堂から劇場通りまで

メンバーが出店する小商いの舞台は、定期的に開催されている「えんまルシェ」というマルシェです。

 

メイン会場が足利市井草町にある「利性院 閻魔堂(えんまどう)」なので、その「えんま」を取り「えんまルシェ」と名付けられました。

 

閻魔堂内には、その名の通り迫力満点の閻魔様が鎮座しています。

 

「人間は死んだら閻魔様に1週間ごとにさばきをうける」

そんな閻魔様にまつわるお話や、閻魔堂の歴史について理解を深めて、マルシェ出店に向けて気合いを充分にしました。

えんまルシェで出す露店は、閻魔堂から出て劇場通り沿いにまで広がります。

 

風格あるレトロな佇まいで、映画の撮影にもよく使われる「旧東映映画館」や、昔から地元で愛されているいくつもの飲食店が並ぶ場所です。

 

今回メンバーは劇場通り沿りに露店を出すもよし。すぐ近にある古民家W邸の中を活用するもよし。どんな小商いをするかで自由に決めることができます。

足利銘仙も扱う、石畳エリアのおしゃれなお店 ―うさぎや

ここで今回最後の、足利ならではのモノのご紹介。

 

足利市はかつて"織物の街"として栄えたという歴史は先に伝えた通りですが、当時つくられていた「足利銘仙(あしかがめいせん)」を販売している「うさぎや」というお店があります。

 

大正・昭和初期につくられた古着物やアンティーク雑貨を販売しているので、“足利らしいもの”や、“ちょっとレトロなもの”を手に入れるとしたら、こちらがおすすめです。

2チームに分かれて、いよいよ「えんまルシェ」企画会議

足利のひと・もの・ことに触れるツアーを終えて、ここからはスタート地点のW邸に戻って出店する小商いの企画会議をします。

 

当日は2つのチームに分かれて企画することに。1つ目のチームは、飲食物を出店します。

 

アイディアを出し合った結果、足利の材料を使って「閻魔様」にちなんだメニューを開発することになりました。

もう一方のチームは物販をすることに決まりました。

 

これまで見てきた足利にゆかりのあるものを使って何か作れないか、足利の思い出を残す何かを企画できないか、などなどなど。議論が白熱してなかなか決まらない様子です。

 

それぞれのチームには、コーディネーターがサポートに入ります。企画会議が終わって帰宅した後にもチームで時間をつくって、スカイプなどでミーティングをして11/18の「えんまルシェ」当日に備えます。

地域と繋がる一歩を踏み出した2日間

以上、足利での2日間のプログラムをご紹介しました。

 

参加メンバーは、足利の文脈とたくさんのひと・もの・ことに触れることで地域と繋がる第一歩を踏み出しました。そのインプットをかたちにするのが、次回のえんまルシェです。

 

どんな小商いを企画し、どんな2日間を過ごすことになるのでしょうか。

 

11/18(土) えんまルシェの詳細はこちら

どなたでも足を運んでいただけますので、ぜひ遊びに来てください。

 

(報告・文:鈴木彩華)