都市部に住みながら、地方での暮らしの体験と人々との交流を通して、自分なりの地方との向き合い方を考えるきっかけを与えてくれる「はじまりのローカル コンパス」。
今回は市貝町を舞台に10/13~14に開催されたコンパスツアーの模様をお届けします。
ツアーテーマは「小さい町で、小さい楽しみをつくる」。田舎の人がよく言う”何もない場所”に、どのような楽しみがあるのでしょうか? 楽しいことをどのようにして作り出しているのでしょうか? そんな田舎の楽しみ方に焦点を当てたツアーとなりました。
野外イベントに運営側として参加
ツアー参加者は、Uターンも含めて将来の進路について考えている栃木県出身の学生や、県外出身者で地方に生きる人の暮らしを覗いてみたいという人、栃木県の魅力をもっと知りたいという人など、さまざまな人が集まってツアーがスタート。
ツアーの初日は、市貝町役場の裏に広がる芝生広場で開催された「いってみっペハロウィンパーティー」に参加しました。
「いってみっペハロウィンパーティー」は、市貝町観光協会事務局長の久松さんや、市貝町地域おこし協力隊の柴さんら、実行委員会のメンバーが一丸となって作り上げてきたイベントです。メインイベントの「原っぱシアター」は、芝生広場に横になって映画が見られる屋外上映会。夏に行われて好評だったことから、今回が2回目の開催。
(左:久松信介さん、右:柴美幸さん)
今回のコンパスツアーでは、当日の運営メンバーとして活動を行い、参加者として、また運営者として、2つの視点からイベントを楽しみました。
芝生の広場には市貝町や周辺地域で商売を営む人らのマルシェが並びます。食べ物から工芸品、ワークショップなどさまざまな出店があり、人気のところにはすぐに行列ができるほどの賑わいぶり。マルシェの人もハロウィンにちなんだ仮装をして、一緒にイベントを楽しんでいました。
参加したメンバーからは「なんとなく過疎地域をイメージしていたけど、すごく子供が多い。これだけたくさんの人が集まっていることにびっくりした」という声が。
ハロウィンのイベントのひとつとして、仮装してきた子供にお菓子のプレゼントを行えば、周りをぐるっと囲まれて多くの子供にお菓子をねだられ、仮装に恐怖した子供に泣かれるなど「普段経験することができない経験ができた」と、メンバーにとっても面白い経験になったようです。
夕方に近づけば、夜の広場を照らすキャンドルの設置もお手伝い。キャンドルを入れるガラス瓶の清掃から、セロファンで彩りの追加、会場への設置まで、実行委員の方々と一緒になって会場づくりを行いました。
日が暮れればいよいよハロウィン本番。手間をかけて設置したキャンドルが夜を幻想的に彩ります。
映画の上映が始まるとメンバーは一休み。観客と一緒になって映画を楽しむリラックスした一時を過ごしました。メンバーの中にはこの「原っぱシアター」を楽しむために、エアソファーを購入してきた人がいて、都会の日常では味わえない贅沢な時間を思う存分堪能したようです。
柴さんはツアー中何度も「自分が楽しくなるにはどうしたらいいかを考えて、動き出してから生活が充実してきた」と言っていました。
与えられた場で与えられたことをただ受け取るだけではなく、どうすればもっと楽しくなるか、自分なりに考えて動いてみることが、これから田舎へと考えている人には特に大事なポイントになりそうです。
映画が終われば、後片付けをして、実行委員と今回のコンパスメンバーで記念撮影をパシャリ。
明るい時間帯でないと片付けられないものは次の日に持ち越し、最後には地元の人と交流のBBQが催されました。
ドラム缶での焼き魚や、ホタテのバター焼き、アヒージョなど、手の込んだ料理が振る舞われ、田舎のBBQの本気を感じる品々に、メンバーの頬もほころびます。
BBQが一段落すると、1日活動したメンバーは宿泊場所へ。
市貝町には現在、外から来た人が泊まれるような施設がないため、今回はお隣の茂木町にある古民家「早坂の家」が宿泊場所になりました。中には広い土間あり、五右衛門風呂ありと、田舎に憧れる人が喜びそうな設備が盛りだくさん。
一息ついて、採れたて茹でたての枝豆をつまみながら、この日の感想や、それぞれの悩みなどをトークテーマにメンバー間の交流に花が咲きました。
朝は、庭先で朝食のおもてなし。
「早坂の家」の改装ストーリーを会話のタネに、1日のはじまりを迎えました。
田舎の資産を生かした地域の人との交流の場
2日目の午前中は、ハロウィンパーティーの片付けを終えて、市貝町でここ最近、不定期で開催されている「サシバの里の縁側めぐり」を体験しました。
自然に囲まれた縁側に腰を下ろすと、まさに田舎の家を訪れたような、ほっとする一時が味わえます。
人の集まる縁側からの景色は、まさに親族が集まっているような賑やかさと穏やかさがあり、メンバーみんな「縁側良いよね」と、離れがたいような気持ち、たまに帰ってきたくなるような気持ちを持ったようです。
今回のツアーでは、2軒の縁側めぐりをするということで、先程の写真の「でぇのうち」(市貝町の方言で、高台にあるような土地のことを“でぇ”と呼んでいたことに由来)に続いてもう1軒、「サシバの里自然学校」へ向かいました。
久松さんの案内で林の中を進んでいくと、見えてきたのが、田んぼでの稲の収穫の模様。「サシバの里自然学校」では、田んぼや里山を活用して、農業体験をはじめとした自然と触れ合うさまざまな体験の場を提供しています。
代表の遠藤さんによると、市貝町には昔ながらの生態系がそのままに残っている貴重な場所で、サシバ(鷹の一種)のように、ほかではあまり見られないような生物もたくさんいるとのこと。
そうした環境を残しつつ、子供たちに自然の中で豊かな体験を積んでほしいとの思いで活動を行っています。
また、縁側についても解説があり、田舎の人はだれかが来たらおもてなしをするのが一般的。ただ、家の中に入れるほどでもないような間柄の人やちょっとした用事のときには、ほどよい距離で気軽に付き合える場所なのだと教えてくれました。
そうしたお話とともに、こちらでも縁側でののんびりとした一時を過ごしました。メンバーの中には、2つの縁側を比べて、良い縁側について考えるなど、すっかり縁側の魅力にとりつかれたようでした。
”楽しいことを作る”に触れる
縁側めぐりのあとは、昼食の時間。元はレストランとして営業していた場所を提供いただき、久松さん・柴さんとゆっくりと交流する時間が設けられました。
それぞれが市貝町に来ることになった経緯や、かつてやってきたことが今にどう生かされているか、楽しいと思うことを進めていくうえでの苦労や難しいところなど、話題は尽きず、最後にはメンバーからも「市貝町でこんなことやったらいい」「こんなことができたら素敵」というような意見も飛び出しました。
田舎で面白いことをやるために大事なことは、という問いに対しては「人とつながりを持つと早い」と柴さん。「誰かを紹介してもらうにしても誰々の知り合いで、というとそれで一気に打ち解けてもらえる。」
久松さんも「ヨソモノがいきなりなにか始めようとしても難しいが、土地の人とのつながりを持っておくと協力してもらいやすい」と言います。
「市貝町はみんな協力的で優しい。なにをしたら地域が盛り上がるのかわからなくて、なにもやっていなかったところに、私達のような外からの意見があってどんどん動き出しているところがある。」と、2人とも。
まずはやってみっぺの精神で
ツアーの最後には、最初の場所、前日ハロウィンパーティーが行われた芝生広場に戻って振り返りを行いました。
メンバーからの感想はさまざま。
市貝町に触れてみての感想としては、「一人が多役を担っている場所が田舎なのかなと感じた。得意から広げていくことが大事なんだなと思いました。自分の得意分野についてよく考えてこれから作っていきたいと思います」という意見もあれば、
「地方のいろいろな場所をめぐるだけでなく、そこで何かをやる体験がセットになっていて、土地の魅力を知るとともに、自分のことについて考えるきっかけをくれる。普通の観光ツアーとは違う魅力がある」という、コンパスツアーそのものについての感想もありました。
久松さんと柴さんからは、地方でなにかやりたいという人へのコメントをいただきました。
久松さん「失敗をいつ決めるかは本人次第。市貝町でダメでも他のところにもっていったら成功することもあるかもしれない。アイディアが違ったり、タイミングが違ったりで、結果は変わると思う。そういうところでつまずいている人が多いので、まずはやってみっぺというところが大事なのかなと思います。」
柴さん「今やっている古民家図書館は、最初は読書会ということでやろうとしたんですが、大外れでした。ただ、それがきっかけでチラシ作りを頼まれるようになって、歯車が急に回りだしました。楽しいことは自分たちで作るという気持ちが大事。周りの人だけで完結することで、できる限りのことはできるだけやる、ということが大切かなと」
最後には、久松さんより「市貝町はこれから冬で特に大きな楽しみはなくなるけれども、春になれば芝桜が咲いてきれいなので、サシバと同じようにまた遊びに戻ってきてくれたら嬉しいです」という言葉で、ツアーは締められました。
これにて市貝町のツアーレポートも終了。みんな「濃い2日間だった」という感想を残して、いつもの生活に戻っていきました。
今回のツアーをきっかけになにか新しく動きだす人はいるでしょうか? メンバーの今後が楽しみです。
なにかを始めたいけれど、何をすればいいかわからない。そんな人はぜひこれからのコンパスツアーに参加してみてください。きっとあなたの人生が動き出すきっかけになるはずです。
(文 河野辺 彬文)
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