「魅力のあるところに人は集まる」とよく言います。
「地域の魅力をアピールしよう!」とはよく聞く言葉ですが、その実、どんな魅力があるのか、どんな魅力を伝えればいいのか、魅力を伝えるにはどうしたらいいのかわからず困っている地方自治体は少なくありません。
そんな中、「少しでも外の人に魅力をわかってもらおう、外の人が感じる魅力を教えてもらおう」という、相互の協力で地域の魅力を探す催しが企画されました。
都市部に住みながら地域との関わりを持つライフスタイルを提案している「はじまりのローカル コンパス」が、毎年秋に実施している『ひととまちとつながる旅』。
ツアー参加者は、普通の観光では行けないようなところに行けたり、普段出会えないような地元の人との交流ができたりと、地域との関わり方を考えている人に特別な体験を提供しています。
東京でのオリエンテーションが1回と、栃木県内各地に赴いて行われるフィールドワークが2回。今回は10/7~8に那須で行われたフィールドワーク1回目の様子をお伝えします。
ツアーの始まりは「黒磯駅」から
ツアーの集合場所になった「黒磯駅」は、かつては特急列車や皇族が那須御用邸を訪れる際のお召し列車が停まる駅でありました。黒磯駅前には当時からの趣ある建物が立ち並ぶ商店街が伸びています。
参加者が集まるとまず案内されたのは、黒磯駅に残る「貴賓室」。普段は公開されておらず、この日特別に見せてもらうことができました。内部は撮影禁止ということで、その様子は外観だけ。
中に足を踏み入れると身が引き締まるような厳かな空気が流れ、当時の様子を残した資料や、陛下が利用したとされる豪華な机・椅子、駅から直接貴賓室につながる専用入り口などが残っています。
みんな内装や設備に興味津々。今はどこを探しても同じものが見つからないという電球や、細かいところまで装飾が施されたドアノブ、蝶番など皇族の世界を目で見ながら、当時の黒磯の様子や歴史について駅長さんが面白おかしく解説してくれました。
見学が終わると、近くのお蕎麦屋さんへ昼食に。今回のツアーをサポートしてくれる地域ナビゲーターの3人を含めた参加者全員の自己紹介とともに、ツアーの目的の共有と簡単なオリエンテーションを実施しました。
那須ツアー前半でチャレンジしたテーマは、「ゲストハウスづくり」と「ローカルラジオ用のCMづくり」の2つ。訪れる地域も違い、それぞれ違った町の魅力に触れられるようにと設定されました。
那須ツアーを案内してくれた地域ナビゲーターの3人を簡単に紹介しましょう。
東京で働いていたもののUターンし、芦野でゲストハウス「DOORz」を運営している佐藤達夫さん。
ツアー中は「DOORz」に宿泊させてもらったほか、DIYやCMづくりの指導など、みんなのお兄さん的な存在でツアー中のあらゆることをサポートしてくれました。
那須町の地域おこし協力隊を終え、黒磯でゲストハウスを立ち上げようと準備中の豊田彩乃さん。
今回のツアーでゲストハウスづくりの場を提供してくれたほか、佐藤さん同様、全日に渡ってツアーを案内してくれました。
那須町の中心部である黒田原駅前を中心に、コミュニティスペースの運営やローカルラジオ放送などをはじめ、ほかにも色々なことをしている大森綾香さん。
(写真左が大森さん)
黒田原ナスタルジック映画祭では、大森さんが私達と地域の人の橋渡し役になってくれ、イベントで地域の人とつながる面白さを感じさせてくれました。
ツアー参加者は、地域のことに興味があって卒論に活かしたいという大学生から、ちょうど仕事を辞めて新しいことを模索している方までさまざまなメンバーが揃いました。
ゲストハウス作りに挑戦
お昼が終わると、1日目のメインイベントであるゲストハウスづくり(DIY)を開始。
豊田さんが、開業しようとしているゲストハウスのために、建物の改装を手伝いました。
佐藤さんと豊田さんの指導のもと、手作業で改装中の建物の土壁をきれいに剥がしたり、すでに剥がし終わっている壁に珪藻土を塗っていったりと、2組に分かれて作業を進行。
普段の生活ではなかなかやることのない作業に、うまくいかなくて賑やかに盛り上がる声もあがれば、上手いメンバーが教えながら交流を育む姿も見られ、後半は手元に集中して会話がなくなるほど熱中していました。
もちろん作業以外にも、要所要所で地域の魅力についてお話を伺う機会があり、町を盛り上げようという人達のリアルなお話に興味深そうに耳を傾けていました。
作業後に入った芦野温泉や、那須のおいしい食材が盛りだくさんのBBQ、差し入れのお酒も入り、さまざまな地域の魅力を感じながら、1日目の夜が更けていきました。
黒田原ナスタルジック映画祭で地域の人が作り上げるお祭りに参加
2日目は、黒磯から2駅先の黒田原へ移動。
ツアー当日に行われていた「黒田原ナスタルジック映画祭」へ参加しました。
「黒田原ナスタルジック映画祭」は2017年で第4回目となる、黒田原で定着しつつあるイベントで、映画の上映をベースに、駅前商店街の各会場でさまざまな催しが行われます。
映画祭が始まる前の時間には、大森さん案内のもとで黒田原の町を簡単に散策。映画祭の会場の下見や、おすすめのお店やビュースポットを教えてもらいながら町を見て回り、最後は、今回作成するCMを流させてもらえるラジオへの出演も果たしました。
ツアーでの課題である「ローカルラジオ用のCMづくり」に必要な素材は、各自映画祭を回りながら撮影してくるということもあって、ただ楽しむだけでなく、どんなCMにしようかイメージを膨らませながら、各々素材集めに頭をひねります。
CM作成に当たって与えられたテーマは「外の人視点からの黒田原の魅力」。大森さん曰く「町の人は町を盛り上げたいと思っているし、町がにぎやかであって欲しいと思っている。でも、どうしたら外の人が来てくれるかはよくわからない。どんなものでもいいので、外の人ならではの視点で黒田原の魅力を切り取ってほしい」とのことでした。
映画祭が始まると、それぞれ解散してラジオCMの素材撮影を行ったり、出店している料理を食べたり催しものに参加したりと思い思いに楽しみました。
今回の映画祭の目玉企画は、80年代イメージの衣装レンタル&メイクブース。ツアー参加者の女性達はみなそれぞれ用意された衣装から気に入ったものに着替え、ノリノリで写真を撮影していました。
町の人も同じような格好をしているからか、すれ違うときに「それいいじゃない!」などと知らない人とでも声をかけがあい、会場が一体となっているようでした。
普通の観光では味わえない地域の魅力を堪能した2日間
今回のツアーは映画祭を満喫して終了。最後には2日間の振り返りが行われ、ラジオCMづくりは次回に引き継がれます。
果たして、メンバーのみなさんは黒磯・黒田原にどんな魅力を感じたのか。次回のツアーでのCM発表が楽しみです。
次回のコンパスツアーは11/25~26に開催予定。
観光を主要産業にしている塩原温泉に足を運び、今回とは違った地域の魅力に触れられるツアーが予定されています。
「はじまりのローカル コンパス」では、今回のような宿泊ツアーだけでなく、都内で開催されるトークイベントや、日帰りのフィールドワークなどさまざまな企画を行っています。
地域との関わることに興味がある人や、地域との関わり方を模索している人など、ぜひコンパスのプログラムに参加してみてください。
(報告・文 河野辺彬文)