足利の古民家を活かして小商いをしてみよう【後半レポート】

地域に関わりたい。つながりを持ちたい。

 

そんな人を対象に、都市部に住みながら、地域との関わりを持つライフスタイルを提案している「はじまりのローカル コンパス」では、栃木県内各地で様々なプログラムを開催しています。

 

足利市でのフィールドワークは全部で2回。

 

1回目はまち歩きをしながら足利の歴史や地域資源を知り、参加メンバーで小商いの企画をたてます。そこで企画したものを2回目の際に開催される「えんまルシェ」というマルシェで実行します。

 

今回は2回目、11/18~19に実施したプログラムの内容の開催レポートです。

 

参加メンバーは何を思い、どんな体験をして地域との関わりをもつ第一歩を踏み出したのでしょうか。プログラムの模様をお伝えします。

 

※前回のレポートはこちら

足利でどんな小商いをする?企画会議!

1か月前のプログラムの最後に、えんまルシェでどんな小商いをするかを話し合いました。

 

その結果、3チームに分かれて出店することに。

えんまルシェのメイン会場で飲食物を販売するグループが1つと、メイン会場の近くの古民家で飲食物以外のものを売るグループが2つになりました。

 

メイン会場ではえんまルシェの名前にちなんで「えんま汁」という少し辛めのスープを販売し、古民家ではものづくりのワークショップを2種類、企画することに決まったところで、1回目のプログラムが終了。

 

それぞれのチームは次回、えんまルシェまでに遠隔で準備することになります。

 

足利の方々と協力しながら、売るものの企画や準備をはじめ、値付け、当日の装飾づくりなどなど……。参加メンバーたちは仕事が終わった後など合間を見つけてwebミーティングで議論を重ねました。

 

そこでいよいよ迎えた、えんまルシェ当日!

足利に集合して、まず最初にやったのはえんまルシェ運営チームのみなさんと会場設営です。

 

えんまルシェは、閻魔堂(えんまどう)と劇場通りに面した駐車場がメイン会場になります。メイン会場のテント設営から一緒に、地域の人と協力し合って会場づくりから始めました。

 

年齢もバラバラで初めて会う方ばかりなのですが、一緒に協力し合って作業をするとぐっと距離が縮まっていくようです。参加メンバーも徐々に運営メンバーと打ち解けていきました。

 

会場ができたら、いよいよチーム別に分かれて準備です。

えんま汁チーム@メイン会場

えんま汁は、これから足利市でイタリアンレストランをオープンされる新井さんが監修してくださいました。その他にもたくさんの地元の方に助けていただきながら、一緒に材料を切ったり、煮込んだり、準備を進めていきます。

 

野菜がたっぷり入った、真っ赤でピリ辛のえんま汁。

辛いのが苦手な方から大好きな方まで美味しく食べられるように辛さはお好みで調整できるようにしました。

栃木レザーワークショップチーム@古民家

一方、古民家では2チームがものづくりワークショップを企画しました。

内容は栃木レザーでできたキーホールダーに文字を刻印するものと、足利銘仙の生地を使って小物づくりをするものです。

 

栃木レザーの刻印ワークショップを企画したのは、会社員をしながら革製品をつくって販売をしている三田くんです。睡眠時間を削ってまで準備してきた、というレザー商品を並べてスタンバイ完了です。

足利銘仙でつくる小物ワークショップ@古民家

足利銘仙チームは、前回のプログラムで訪れた「うさぎや」で仕入れた足利銘仙のはぎれを使って、くるみボタンやストラップ、カフスボタンなどの小物をつくるワークショップを企画しました。

 

はぎれにはいろいろな柄のものがあって、お客さんに好きなものを選んでいただいてから小物をつくります。

 

どう置いたらお客さんが見やすいかな……?と、装飾に試行錯誤している様子でした。

準備でドタバタしているうちに、15:00からえんまルシェがスタート。続々と人が集まってきました。

 

各チーム、どんな感じで小商いを進めていったかというと……

イレギュラーの連続。えんま汁チーム

えんま汁チームは鍋が大きくてなかなか温まらない…など、始まる前から想定外の出来事もありましたが、心強い足利のみなさまのサポートによって、なんとか温まって美味しい温度にすることができました。

 

1杯300円でボリュームのあるえんま汁は大好評。お客さんから「美味しい」と言ってもらえたり、自然と生まれる会話に花をさかせたり。都会では起きにくいコミュニケーションがここにはあることを実感し、良い体験だったという参加メンバーの声がありました。

 

途中で具だけが無くなってしまったので「えんまスープ」として1杯100円で売ったり、さらに隣で出店していたカレー屋さんでお米が余ったのでそれを使って「えんま雑炊」として150円で売ったり、と機転をきかせて自由に小商いをしていました。

 

出店者の裁量で、商品も値段も変わる。そんな小商いの醍醐味を感じた時間でした。

それぞれ試行錯誤。古民家でワークショップチーム

古民家はメイン会場から離れているので、足を運んでもらうためには少し工夫をしないといけません。看板を持ってメイン会場に行き、こちらの存在を知ってもらいお客さんを連れてくる作戦をとりました。

 

古民家に来てくれたお客さんは、「こんな場所があるんだ」と。遠くからいらっしゃった方はもちろん、足利に住んでいる方もなかなか訪れる機会の少ない場所なので珍しそうに見学してくださいました。

そんな中、栃木レザーのワークショップは良いペースでお客さんが来てくれていました。

 

えんまルシェの中では単価が高めの商品だったのですが、レザー職人の三田くんのこだわりの詰まった妥協のないものなので価値を理解し、購入してくれる方がたくさんいました。

 

三田くんの“お客さんにいいものを持って帰ってもらおう”とワークショップに全力で向き合う姿と、お客さんが帰っていくときの満足そうな表情が印象的でした。

一方、足利銘仙をつかった小物づくりのチームは、キャパシティに対して客さんが少なかったので、集客に力を入れていました。

 

日が落ちてきたころには運営の方に相談して、古民家の他にメイン会場の一角でもお店を出させてもらえることに。普通のマルシェではおそらく無理な話だと思うのですが、えんまルシェの運営の方々のご厚意でとても柔軟に許可をいただけました。そのおかげで客足も伸びていきます。

 

メンバーは足利銘仙について事前に勉強し、その歴史などもお客さんに伝えながら、和気あいあいと小物づくりをしていました。足利銘仙のことを改めて知る機会も、さらに寒空の下でものづくりをする機会もないので、貴重な体験だったとお客さんも話してくれました。

マルシェのあとは、閻魔堂で打ち上げ!

イベントをやりきった後には、一緒に頑張ったメンバーで打ち上げをする時間が何より楽しく特別なものです。マルシェの最中はお互い忙しくて話すことができなかった、他の出店者とも交流ができました。

 

地域の方と話をしていくなかで共通の趣味や仕事などを見つけ、再び会う約束をしている参加メンバーもいました。

参加メンバーのほとんどは、普段は首都圏で会社員をしている方です。

そんなメンバーにとって、マルシェに出店して小商いをするのは初めての経験で「みんなで協力してものを売る」ということ自体がとても珍しいものでした。

 

えんまルシェがきっかけで出会った運営の方々をはじめ、出店者の方々、お客さんとの間で交流が生まれて、“地域でなにかチャレンジをする”ということの面白さを感じられる機会になったようです。

 

 

―2日目―

 

いよいよ最終日!今回の足利でのプログラムの集大成となる1日です。

自分なら古民家をどう活用する?イメージしながら街歩き

この1日で考えるのは、「自分なら古民家をどう活用するか」ということです。

 

活用される機会を待っている古民家は、足利にはいくつもあります。自分なら何がしたいか、何ができるのかをイメージしながら、古民家を3ヵ所見学させていただきました。

 

挑戦したい人を応援し、実際にチャンスくれる物件のオーナーさんが実際にいらっしゃるのです。

チャレンジを応援し、人と人を繋ぐ場所

まず見学させていただいたのは、古民家の利活用を考える「つなぐつむぐ会」が、イベントで度々利用している物件です。

 

もともと住居として使われていたので、どこか懐かしい気持ちになって落ち着く古民家です。

 

以前こちらでカフェを開いたところ、2日間で300人もの人たち集まったと言います。その時に出店したカフェのオーナーさんも、足利市出身。そのカフェ出店がきっかけで、今後はUターンをして足利でカフェをオープンさせることになったそうです。

 

まさに、企画者にとってはチャレンジの場となり、またお客さん同士でも交流が生まれる。そんな素敵な連鎖をいくつも生んでいる場所です。

活用を待っている国登録有形文化財

次の古民家は、糸商の家系の方が代々所有している、糸のお店だった物件です。国登録有形文化財にもなっていて、織物産業で栄えた足利を象徴するような物件になっています。

 

お店ならではの細部にこだわりが詰まったつくりは、見れば見るほど奥が深いものでした。

 

文化財にもなっている貴重な古民家ですが、オーナーさんはどんどん活用してほしいと希望されているので、「そんな物件を使えるチャンスがあるなんて……」と、参加メンバーも目を輝かせながら妄想を膨らませていました。

未来のアートの拠点。大学生が夢を乗せてリノベーション

こちらは現在、文星芸術大学の教授が借りていて、ゼミの生徒がリノベーションをしている古民家です。

 

まさに始まったばかりで現在進行中のプロジェクトです。足利がアートの街になるように……という想いを込めて、アトリエにしようと動いています。

 

約3年後に完成予定で、完成したら様々な展示が行われるそうです。昔ながらの古民家が、大学生の手によってどんな風に生まれ変わるのでしょうか。これからも応援したくなる、とても楽しみな動きです。

あなたなら古民家をどう使う?作戦会議

足利の街歩きが完了し、自分はどういう風に古民家を活用してみたいか、アイディアを共有しました。予算や時期など、かなり具体的な部分まで落とし込んでからの発表です。

 

地元のママさんたちの溜まり場にしたい、お試し移住の物件で活用したらどうか、アートインレジデンスを足利で企画したい、年末に忘年会をやりたい、などなど。

 

参加メンバー各自の問題意識や興味関心がそれぞれなので、とても個性のある企画が飛び出してきました。

 

コーディネーターの「つなぐつむぐ会」代表の山田さんも「ぜひ一緒にやりましょう」と、参加者メンバーとこれからについての話をしていました。

最後は、プログラム全体を振り返って、自分が今後地域でやりたいことや、望む関わり方を紙に書いてシェアをする時間です。

 

ココファームワイナリーで農業体験をやってみたい、都市と自然のいいところどりのライフスタイルを送りたい、古民家を活かした取り組みに参加したい、足利と都内の若者を繋げたい、などなど。

 

継続的に地域との繋がりを持ちたい人が、その後も関係を持てるようにするのがこのプログラムの目的です。今後、自分はどうしたいのかをクリアにして共有する時間になりました。

あなたにとってベストな地域との関わり方を、探してみませんか?

インターネットにのってもいなければ、普通の観光でも体験できない、足利のひと・もの・ことに深く踏み込んだ数日間。

 

今回、同じ時間を共にした参加メンバーも、全員がそれぞれ違う感想を持っていました。

1人1人のバックグラウンドや参加する動機によって、同じ景色を見ても感じ方が違ってくるのです。

 

地域との関わり方、つながり方に共通の正解はありません。

自分にとってのベストな状態をつくるために、自分が心地よいと思うスタイルを見つけることが大切です。

 

はじまりのローカルコンパスでの体験が、参加メンバーにとって最適な地域への関わり方のヒントを見つけてもらえるきっかけになりますように。

 

(報告・文:鈴木彩華)